ボンネットの下に潜んでいるのは、6.2リッターのV8自然吸気でも5.5リッターV8ツインターボでもない。メルセデスAMG GTと基本を同じくする4リッターのV8だ。ドライサンプ化こそされていないけれど、標準で最高出力476psと最大トルク66.3kgmを生み出すモンスターである。テスト車はしかも単なるC63ではなくて、高性能版の「S」である。ノーマルよりも10%ほど強力な最高出力510psを5500-6250rpmで、最大トルク71.4kgmを1750-4500rpmで発生する。
スターターボタンを押すと、バフォンッというAMG特有の爆発音が聞こえてきて、思わずほほが緩む。2基のターボチャージャーをVバンク内に収めた新しい4リッターV8は単にダウンサイジングで高効率化を図ったもの、と解するとAMGを誤って理解することになる。
まずもって、あの地獄の釜がたぎっているような野太くて豪快なAMGサウンドは不変で、そのことに喜びを覚える。アクセルを踏み込めば、過給エンジンとはにわかに信じられないほどラグがない。ターボであることがわかるのは、二次曲線的にGが急上昇するからだ。回転自体は実にスムーズで、ストレスがまったくない。
フルスロットルを試みると、モーレツに速い。あっという間に日本の公道では許されない速度に到達してしまうので、自制心を必要とする。しかし同時に冒険心も持っていないと、C63に乗っている甲斐(かい)がない。
C63 Sクーペは、3つの連続可変フラップによって排気音を電子制御する「AMGパフォーマンスエグゾーストシステム」なるデバイスを持っている。エンジン、ダンパー、ステアリングなどのプログラムを切り替えられる「AMGダイナミックセレクト」という固有名詞のドライブモードが付いていて、Comfort、Sport、Sport+、RACEと4つのモードがある。Sport+を選ぶと、ステアリングがいっそう重くなって足まわりがキリリと締まり、乗り心地ががぜん硬くなって、エンジンがごう音を発する。ドロドロ、デロデロ、アクセルオフすると、アフターファイアみたいな爆裂音がしたり、ゴボゴボとガソリンを飲み込むような音がしたりもする。平和な街の中をレーシングカーで走り回っている狼藉(ろうぜき)者になった心持ちがする。